幾千の夜を越え
教室に入る俺を
待ち構えて居たのは
悪友の奴でもなく
毎朝恒例の黄色い声でもなく、

「何や右近えらい張り切りおってからに…何や都合悪い事でもあるんかいな?」

左山の意味不明の質疑だった。

「挨拶もまともに出来ないのか?質問の意味が全く理解出来ん!」

「そない無駄に力使いよらんでも雨降らすぐらい出来よるやろ?
今日は躰痛いの我慢せえや!」

俺を無視し左山が言い切った。

「ちょっと待て!
今のどういう意味だ?」

机に投げ出した足を戻し
左山の肩を掴む。

と同時に

「キャー見て!」
「右川君と左山君の至近距離」
「極上ショットよ!」
「シャッターチャンスよ!」

取り囲まれた携帯カメラ。

「ざけんな!撮んじゃねぇ!」

俺が吠えれば、

「キャーカッコイイ!」
「こっち見て!」

余計に煽る結果に苛つく。

「そないに怒りよんなや…。
何や中途半端に目覚めおって…。ぐずぐずしよらんとはよ目醒ましよらんか!」

左山が答えの代わりに
平然と言った。

今日はどうも調子が狂う。

体調のせいなのか、
得体の知れない不安の
焦りのせいからなのか。

どういうことだよ?
この雨は俺が降らせたとでも
言いたいみたいじゃねぇか…。

まさかな?
有り得ねぇだろ!

何かが頭の中で引っ掛かった。

雨を降らせたことか?
左山に突っ込まれたことか?

前にも似たような事があった様な気味の悪い感覚…。

いつ?どこで?
抑…本当に似た経験をしたのか?

思い出そうと記憶を出来る限り
遡っていってはみるのだが…。

糸口さえ見つけられない。

目醒めるってどういう意味だ?

単純に頭を冷やせってことか?

違う意味を含んでいるのか?

左山が読めない。

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