幾千の夜を越え
一日中重い体を引き摺って過ごし漸く放課後。

実際は帰りてぇってのが
本音なのだが。

一度引き受けた話を無責任に
放り出す気にはなれない。

約束の時間まで残り日数も無い。

「仕方ねぇか…」

心のままに足取りも重く向かった美術室の前で俺は目を見張った。

狭い廊下に溢れかえる女の群れ。

美術室の中のプライドに飛び込む前に別のプライドを通り抜けろって事かよ?

俺が裸体モデルやってるって噂が広まっての光景なのだが…。

んなに俺の裸に興味あんのかよ?

「モテよる男はちゃうな…。
然し右近もけったいな事しよる。俺は尊以外に見せへんけどな」

いつの間にか背後を取られていた気が散漫してたのもあるが…。

「何の用だ?嫌味でも言いに来たのか?」

動揺を悟られない様に
振り返りもせず答える。

左山が鼻で笑う。

「此処で雨は降らせられんしな。助けてやってもええで?
右近が条件を飲みよんならや…」

又雨かよ…。

「助けるだと?お前に出来んの?あの女共消してくれるのかよ?」

「嗚呼」

返事と共に

廊下の窓ガラスを叩き割り突風が吹き荒れた。

「キャー」
「やだ!」

口々に喚きながら
女共が走り去ると

嘘のように風が止む。

「ほな…条件は飲んでもらうで」

左山が告げた。

「お前…が、やった…のか?」

直視した先に

「何や?当然やろ?そないな事も思い出せへんのかいな…。
ホンマ呆れよるで…」

眉をしかめる左山が居る。

コイツが今の風を起こしたって?

信じられるかそんなこと…。

偶然だよな?

今日は生憎の雷雨だ。
強風が吹いたとこで何の不思議は無いだろ?

轟く雷と先の見えない雨
外の木々は煽られてはいない。

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