幾千の夜を越え
「条件ちゅうのは右近には手出しして欲し無いってことや…。
今度ばかりは俺が一人でやらなぁアカンからな…」

「何の話だ?」

左山が俺を右近と呼ぶことには、もう突っ込むのは止めた。

「せやな…右近はまだ目醒めてもおらんことやし。
言ってもしゃあないねんな…。
せやけど念の為や忘れんときや」

言うだけ言って帰って行く左山の背中を見送る。

変な奴だとは思っていたが…。
変な奴で片付けて良いのか?

手出しって…。
何にだよ?

今度ばかりはって…。
前には俺が手出ししたってのか?

やっぱり俺の知らないとこで何か遭ったってことなんじゃないか?

最初は女がらみのことかと思ったんだがどうも奴の態度からそれは考えられないだろう。

今奴は茜に間違いなく惚れてる。

例え始まりが奴の勘違いであったにしても…。

そこから本気にならないなんて…ことにならないとは言い切れない

少なくとも…。

今のところ奴が葵に興味無いのは幸いだった。

もし…
奴が茜ではなく葵に告っていたら俺は間違いなく全力で奴を止めていただろう。

割れた窓ガラスに視線を這わせ、吹き込む風に身震いがする。

今の俺が奴に勝てる可能性は…、無いに等しかったとしても。

葵だけは何を代えても俺が守る。

その意思が揺らぐことは無い。

「右川君何してるの?
危ないから美術室に早く入って」

部長の声にノロノロと体を動かし美術室に向かった。

< 58 / 158 >

この作品をシェア

pagetop