幾千の夜を越え
お袋のメイクルームに行き

「何処にあんだ?」

目当ての物を探す。

「慎ちゃん…着替えなよ…」

その横で葵がぶつぶつと口籠る。

「消しとかないとマジィんだよ。あの部長涙目で訴えてくるからな女の涙程最強の武器はねぇな…」

「消すって何を?」

「ん?まぁ…痣?」

「痣?」

右腿の痣が昨日より濃く
浮き出てきやがった…。

確かに今朝起きた時から
違和感はあったんだが…。

「昨夜俺暴れてたか?」

ゆっくりと首を左右に振る葵に。

「寝てる間しか考えられねぇんだけどな…」

首を捻る。

「それで何を探してるの?」

「嗚呼…ドーランって言ってさ、舞台用のファンデ?」

「えっ?そんなの家にあるの?」

「…多分…な」

そう言われると自信はねぇけど。

あのお袋の事だあるとみてる。

「…痣何て隠す必要ないよ…」

葵の呟きに振り返る。

「…慎ちゃんは慎ちゃんだもん。痣なんかで変わったりしないよ?それに…本当はヤなんだもん…。色んな人に慎ちゃん見られるの」

「葵…」

初めて見せた葵の可愛い嫉妬に
俺は愛しい彼女を抱き寄せた。

「…ごめんな?
あと少しで終わるから…。
此れが終われば葵だけの者だ」


『愚生は…唯…の為に存在し…』


何だ?
今の台詞は何だよ?

突如思い出した台詞。

俺が…以前…言った…台詞…だ。

いつ?
何処で?
誰に?

落ち着け…。

そうだ、
何かの映画かドラマの…

映画もドラマも…
俺は見ない。

小説は?

教科書の中の一文?

歌詞の一部か?

又…あの深い靄の海を渡り出す。

「愚生は…」
俺は、

「唯一…」
ただ、

「…の為に…」
誰の為に?

「存在し…」
生きている。

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