幾千の夜を越え
「右近様!
右近様一大事で御座います」

廊下を走り寄る声を
背中で聞き急ぎ立ち上がり
障子戸を開け放つ。

「何事だ?」

「此方で御座いましたか。
一大事で御座います」

女官が息咳切って駆け寄る。

「何があったのだ?」

「申し訳ございません。
実は尊様の寝所にかの様な物が」

言うが速いか懐から布を取り出し両手の平で広げて見せた。

「此れは!」

それを目にした瞬間
顔付きが変わる。

「尊には?」

「存じ上げて居りません。
私だけで御座います」

「そうか」

それを受け取り自らの袖口に収め

「此れは預かっておく。
他言無用であるぞ…左近にもだ。
そなたも忘れよ!」

強く言い含めた。

女官が無言で頷き立ち去った後、踵を返し寝所へと戻った。

袖口から取り出す
布に包まれた金属片

「…呪符…。
強い念では無いが…。
宣戦布告と言ったところであろう…問題は、尊の寝所へ如何にして紛れたかだが或いは…」

人形をした古臭い鉄の塊。
此れは昔からまじないに使われる代物だった。

呪い―まじない―

相手は尊なのは明らかだが
目的は?

誰が何故尊に?

尊とは
氏神の化身ではなかったか?

敬い尊く崇めさえしろ
呪うなどと考えられないだろ?

暴徒の仕業なのか?

右近は…。
俺は気付いているのか?

呪符から念を払い
それを片付ける為に戸棚を開けた

中にはいくつも積まれた
同様の呪符…。

その上に重ねる。

「此処まで来てしまったか…。
だが今は未だ左近も目醒めてない此方には分が悪過ぎる。
持ち堪えてくれれば良いのだが」

< 67 / 158 >

この作品をシェア

pagetop