幾千の夜を越え
目の前の青年は
今の俺と同じぐらいだろうか…。

黙々と
切れる程研ぎ澄まし
汗を流し続けている。

此処に己しか居ないかの様に。

休むことなく
型を決めていく姿を

俺もまた至極真剣に
全神経を傾け見続けている。

「いつまで見てるつもりだ右近」

終には青年が動きを止め
対向する。

「集中力が途切れたか…。
それも致し方あるまい。
人としては長く出来ていた方かもしれぬな」

「俺は人だ!
左近の役を与りし唯の人だ!
右近とは違う!
神通力など持ち合わせん!」

「可笑しな事を言うではないか。左近の役を仰せ遣っただけだと、申すのだな?」

左近が身動ぎ一つ出来ず
ただ瞳を揺らしていた。

「左近の役とは尊に併せ生誕する者に与える役などではではない。天賦の才を持ち合わせた者の事を左近と呼ぶのだ!」

「俺にはそんな力は無い!
そんな力存在しないんだ…」

「では何故辞任せずあまつさえ、昼夜問わず鍛練し続けるのだ?
お前も気付いているのだろう?」

「右近…正直に答えろ。
俺に誠の風神の力が備わっていると思うか?」

直接的な返事の代わりに
答えがそれというわけか…。

「風神の力とは風を操る力の事。誠の風神為れば先見の明を持つ」

「俺に先読みの力など…」

「備わっているではないか。
尊の行動を逸早く見抜き先回りし危険を回避する」

「それは!
日頃の行いを見ているからだ。
先見の明などではけして無い…」

「それで良いのだ。
経験を積み与えられた情報から、惑わされることなく読み解く事が先読みなのだ」

押し黙る左近に
付言する。

「受け入れるのは容易では無い。だが、乗り越えねばそれまで…。左近よ誰で在ろうとも尊に仕え、命を懸ける覚悟があるのならば、そろそろ己を認め解き放してやれ期は存分に熟しているぞ」

左近に向けた台詞が
何故か俺自身に突き刺さった。

「それを証明してみせよ」

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