幾千の夜を越え
受け入れるのは容易では無い。

日が昇る前…
冴え渡る頭に残る。

だが、乗り越えねばそれまで…。

右近の台詞…

命を懸ける覚悟があるのならば、

俺が覚悟を決めるのは
他ならない葵の為だ!

そろそろ己を認め解き放してやれ期は存分に熟しているぞ

馬鹿らしい…
こんな茶番さっさと終わらせてやるさ。

震える手を古書に伸ばす。

俺はまだ気付かない振りをしている。

夢の記録を鮮やかに覚えている事実に。

一頁一頁捲る度に
写真の付きの日記でも
読み返している感覚を。

今なら解る。

左近の気持ちが。

俺の中で確実に何かが変わり始める。

今まで見聞きしてきた事実が…。

俺の信じてきた価値観までも…。

何よりも
真実を知った後、
俺は今と同じ気持ちで
葵を愛し続けられるのか?

そこに何も因果も感じずに
純粋に葵を愛していると言えるのだろうか?

葵を変わらずに欲し続けても良いのか?

例えば、
尊が茜だったとしたら…。

例えば、
尊は葵だったとしたら…。

俺は、
どっちであって欲しいんだ?

右近の立場上
尊への恋心など…、
あってはならなかった筈だ。

茜が尊なら
葵を愛する想いを
押し留める必要などなくなるが、

葵ではなく尊である茜を一番に
守らなければならなくなる。

葵が尊なら
尊への邪な想いは
金輪際捨て去らなければならない

尊である葵を全身全霊で守る事も唯の使命で義務付けられる。

どちらに転んでも
俺が右近を受け入れた瞬間
葵との関係は終わることを
意味していた。

俺は…、
右近を受け入れられるのか?

葵を手放し
尊への忠誠を誓えるのか?

こんな情けなく震える手で覚悟が出来ていると言えるのか?

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