幾千の夜を越え
「おじさん…此返すよ」

一通り目を通したその足で
神野家へ向かった俺を

「お役にたちましたかな?」

待ち構えていたおじさんが
見据えた。

「此は貴方様の書で御座います」

差し出した古書に添えられた手で押し戻される。

「此は確かに俺(右近)が書いた書なんだろうけど…。
俺にはまだ感情移入しやすい長い物語を読んだ気にしかならない。此だけではピースが足りないんだ肝心な最期が俺には見えなかったそれが解らなければ俺と右近は…まだ別の人格のままなんだよ」

確かに俺は以前右近だった。

今はそれが否定出来ない
左近が左山だということも
紛れもない事実なのだろう。

だが、
俺にはまだ右近が別人格のままだ左山の様に一体化しきれてない。

力にしても…
俺には到底操ることなど出来ず。

尊にしても、
左山は茜だと確信していたが…。

純真無垢で浮世離れしている
葵が尊なのではないかと
心肝が細胞が俺に告げている。

「おじさん…俺が右近なら、
尊は何処に居るんだ?
何故俺に葵を預けたんだ?
教えてくれよ…」

「慎輔君…慌てる必要はないよ。何れ君が目覚めたら全てが解る」

諭されているのは解っても
どうしようもなかった。

俺にはこれ以上為す術がない。

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