幾千の夜を越え
葵の待つ家には帰る気になれず。

そのまま目的地もなく
電車に揺られている。

学校をサボった事より
モデルをすっぽかす事が
俺に罪悪感を感じさせていた。

何時間も
唯、茫然と電車に揺られ
流れ行く景色を眺めていた。

ビルの大群を抜け
民家の街並みが消え

うねる川を渡り
山の斜面を越える。

いつしか
田畑もなく荒れ果てた
荒野が広がるだけの土地に着く。

終点を告げるアナウンスに
つられる様に降り立った。

俺1人を残し
電車は来た道を引き返す。

「神亡?」

無人駅の構内に申し訳程度に立つ古びた小さな看板

KAMINASHI
文字がうっすら残る。

真っ昼間だというのに
どこか暗さを感じさせるのは、

この鬱蒼と茂る雑草と
行く先を隠す樹木のせいだ。

引き寄せられる感覚に先を急ぐ。

緩やかな丘になった林を抜け
開けた土地が出現する。

赤茶けた土で覆われた
痩せた大地が広がる。

風が吹き抜ける度に
噴煙を立ち上げる。

先に見えるのは、
集落…とでも言うのか小屋の群。

近付く程に
長屋らしき掘っ立て小屋は

打ち付けられた風のせいか
壁面のトタンが剥がれ音を立て

覗き込むまでもなく
中を一望させている。

生活感を残したままの
住み棄てられた集落は
悲惨な過去をも想像させた。

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