幾千の夜を越え
微かに雨の匂いがして
一瞬の目眩を起こす。

空気が変わった?

否、気のせいだろう…。

ざわつき出す胸中を無理矢理鎮め歩き続ける。

奥に進むにつれ
一層落ち着かなくなる心肝が
吐き気を伴い俺を襲う。

引き返せば良いのだが、
胸が騒ぐ度に先を急かす。

この先に何が俺を待ってるのか?

不安以上の期待と同時に恐怖が
沸き上がってくる。

頭の中の信号は
黄色く点滅を繰り返し
加速していく。

雨上がりの噎せかえる深緑の香り

俺の足を止めたのは。

荒れて朽ち果てた集落等ではなく今も堂々と健在する農村だった。

振り返った処で
来た道は鮮やかに畑が実りを付け

子供達の走り回る姿が
目の端に映り
話し声や笑い声が
耳に届く。

その違和感に空間が変わったと
気付くのに時間は掛からず。

受け入れるのは難しかった。

「冗談じゃねぇよ!
俺に何を求めてんだよ…。
俺は元の右近じゃねぇ…。
何の力も持ってねぇんだ。
唯の木偶の坊なんだよ…」

俺の叫びは誰にも届かず
振り返るヤツは誰1人居ない…。


「ふ〜んまあ良いと思うぜ俺は」

突如背後から掛けられた声に、
全身の血が波立つ。



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