偏愛ワルツ





私は私をよく知っている。胸が他人より大きいことも、垂れ下がった眦が男に甘えるに適していることも、熟知している。

そして、夫の好みもよく知っている。清楚で、おとなしく、物静かでありながらきちんと微笑んで夫の背広を受け取れる女。

女の子ではとてもなしえない、品性こそが化粧と言える奥さんが夫の好みであり、私は、それを実演している。

自分の持っている要素と相手の求めてくる要素に無理のない私達は、結婚して五年、まったく問題のない生活を送っている。

けれど、彼は違う。

常に私の持っていない要素を求めてくる。

私の足の下で這いつくばった彼は、荒い息をしていた。一瞬、その金髪頭があがりそうだったから、踏みつけてあげる。

「いつ、顔をあげていいって言ったかしら?」

「ご、ごめんなさい……」

俯いている彼が、声も体も震わせる。耳にいくつもついたピアスが、小さく鳴いていた。

「謝れば許してもらえると思ってるの? 誠意があるなら、行動で示して」

小さくなっている彼が、バネ仕掛けのように顔をあげる。

だから容赦なく蹴った。爪先が痛くなる。だから腹立たしさが増す。
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