偏愛ワルツ
あの人なら――容赦なんてしないだろうに。

担任はやがて、背骨が溶けたように俺へ寄りかかってきた。

唇を離すと、荒い息と上下する肩が文句を言ってくる。

「こんな、こと、して……許さない……」

「許さねぇなら、仕返ししてみろよ」

抱えていた腰を手放し、段を下りると、担任はその場でぺたりと崩れた。

踊り場で振り返る。

「ああ、そうだった。おい」

「……なによ……」

「キスは、好きな相手にするもんなんだぜ?」

「……」

「意味、わかるよな」

自分じゃ決まったと思ったんだが、

「冗談じゃないわ」

担任は、手の甲で強くぐいっと、唇を拭った。

「一生お断りよ」

「は。そうかよ」

苦笑しながら、俺はもう一度見上げた。

スカートの奥が見えて、胸の内側がむずむずした。

まるで、恋をしたように。



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