偏愛ワルツ
「……勝手にすればいいよ」

「ありがと」

まるで喋る影を引き連れているようだった。どうやら僕の歩調を真似しているらしい。廊下でも、階段でも、彼女の足音は僕のそれに重なっていた。

「楽しいの?」

「あんまり」

「なんでやるの」

「一体感、ない?」

「君だけが一方的に感じてるだけ」

「そう。じゃあ私が前を歩いたら、君は合わせてくれる? ほら、そしたらお互い様」

「やんない」

ついでに言うと、言葉の使い方がおかしい。

とはいえさすがに、下駄箱で靴を履き替える時まで同じというわけにはいかなかったらしい。

僕には僕の、彼女には彼女の履き方がある。僕はばさりと落とした靴を足で引き寄せ、かかとを軽く踏み強引に足を突っ込むだけだ。が、彼女はいちいちしゃがんでそっと下ろしたローファーに、静かに足を滑り込ませていた。

「あーっ」

と、昇降口を出た僕に対し、文句が飛んでくる。

「女の子を置き去りにするなんてサイテー」

そもそも、一緒に行動しているつもりがない僕は、

「そう? わざわざ言葉抜きで『置いてくよ』って伝えてるんだから、親愛の証だと思うけど?」

わざと、彼女の戯言を真似してみせた。

自分が人にやっているイタズラをそのまま返されるのはけっこうイヤなことだ。だからそれで悔しがる彼女の膨れっ面見たかったのだけど。

「そう。なら仕方ないね」

「……」

全然、おもしろくなった。特に、僕がわざと、あえて、嫌味で物真似したんだとわかっているところが。
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