偏愛ワルツ
ステップを上がると、彼女もついて来た。彼女もこのバスをいつも使っているのだろうか。

いや違う。

彼女は今、乗車券を、取った。通学に使っているなら、バスカードを持っているだろうに。

「家、こっちなの?」

「家、こっちなの?」

なんのつもりだろう。

「いつもバス使うの?」

「いつもバス使うの?」

おーけー、わかった。もう気にしない。質問するだけ無駄だと思った。バスの進行方向と逆に彼女の家があったとしても、それは僕が気にすることじゃない。ただ、同じ高校の、同じクラスの女子が、同じバスに乗ってきた。それだけだ。

車内は閑散としいた。見渡す限り、優先席に腰掛けている、手押しカートを携えたおばあちゃんと、最後部座席の角で居眠りをしている大学生くらいの女の人しかいなかった。あとはガランと空いている。

これならゆっくり座れると思った。が、どこかに腰掛けると絶対に、彼女が横に座るだろう。残念ながら、一人掛けの椅子はないバスだった。

僕が座れば、彼女が座る。その構図は必然的に、僕の出口を塞がれることを意味していた。下手をすれば、降りたいバス停で降りられないかもしれない。これ以上身動きを封じられるのはご免だったから、立っていることにした。

なにが悲しくて、先生の手伝いをして疲れている僕が、またこんな苦労を買って出なくてはいけないんだ。
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