偏愛ワルツ
「ふうん」

彼女も、正面を向く。その首がまたすっと動き、窓の外のなにかを追った。なにを追ったかはわからないが、しばらくなにかが過ぎ去ったほうを見ていた彼女は、僕に後頭部を向けたまま言った。

「……さっき、君をね、覗き込んでたときね」

「続くの? それ」

「イヤなら耳塞いでれば。私は君を相手に独り言を言ってるだけだし」

「それは独り言って言わない」

「私、微妙な体勢でいたでしょ。あの時、運転中の人とか、道の反対にいた人とか、どうだったのかな」

「どうって」

「だって、女子高生がお尻突き出してるんだよ」

「は?」

「前屈みになって、膝に手を突いて。後ろからそれ見たら、ね? あのポーズって、そういう風にも見えるでしょ?」

「別に恥ずかしくもなかったんじゃないの?」

「まあ、ね」

彼女の首が、ようやく正面に帰ってくる。冷たい態度を取りながらも、ちらちら横目で様子を窺っていた僕は、そこでハッとした。

「そういうのが恥ずかしくないってことは私、汚れてるかな」

「……さあ。……汚れてるって自分で言って、それに酔ってるんじゃない?」

「……かもね」

笑う彼女は、眉根がしなだれていた。言葉が、跳ねていなかった。ホップもステップもジャンプもない音が、たった三文字。

「かもね、か」

「ん、なんか言った?」
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