偏愛ワルツ
「――セットを二つ。飲み物は両方ともコーヒーで」

『かしこまりました。少々お待ちください』

「あ、待って」

窓口に向かって乗り出しているおじさんの肘を、慌てて二、三度引っ張る。

彼が流し目を寄越した。切実に訴えかける。

「私、コーヒー苦手なの」

「俺が勝手に頼んだんだ。腹が減ってないなら、気にしないでくれ」

「……お砂糖とミルク、三つずつお願いして」

「……。すみませんそれから、砂糖とミルク、三つずつ」

『かしこまりました』

体を戻した彼が窓を閉める。受け取り口に向けて、ゆっくりとアクセルを踏んだ。

「白か」

「うん?」

「大人はみんなカフェオレだ。もとが黒であれ、白であれ、生きてるうちに真逆のものと触れてしまって、中途半端な色になる」

「じゃあ私もカフェオレ」

「君はまだミルクだろ」

「今日の下着なら白だよ」

「心もだ」

「くすぐったい」

肩を揺すって笑う私に、彼も笑いかけてくる。薄暗い車内、少しこけた頬の輪郭とのどぼとけの凹凸だけが見て取れる。

どうしようもなく、それに、触れたくなった。

自分のことを、汚いと言い張る大人の、脂が浮いた肌に。
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