偏愛ワルツ
「ねえ、おじさん」
「うん?」
「私、白くないよ。絶対、必ず、少しずつでも確実に、濁っていってる」
「……」
「体も、心も。脳みそだって、黒くなってる。きっとおじさんより先にガンになる。体も、心も」
受け取り口には、先に入っていた車がいた。赤いテールランプの手前で、おじさんが停車する。その目は、わざと私を向いていなかった。見ててもおもしろくない赤い灯りを見つめている。
ねえ、テールランプは、おじさんにキスをしてくれないよ。
その頬に、私は手を伸ばした。ひげを剃ったのは朝なんだろう。少しだけ指先に引っかかりしょりり。一本一本、逆撫ですると、私の指先が快感に震えていた。
この人は生きている。私は、生きているけれど、実感がない。おじさんに触れている指先がようやく今、息吹いているおじさんに触れている指先だけが。
おじさんは、いやな顔ひとつせず、私に撫でられている。無感情に正面を見つめる切れ長の瞳が、よけいに私を誘った。
私は天使じゃない。人が、白と黒に混ざり合ってカフェオレになるのなら――私は生まれたときから黒側だったに違いない。
「おじさんは、私のなにが白いって言うの?」
「答えがほしいのかい?」
「ほしい」
おじさんの肌のぬくもりだって知ってる。
普通の女子高生が、奥さんのいるおじさんと付き合うことがおかしいことだって、知ってる。
そもそもこんな時間に、二人きりでいるのもおかしいって知ってる。
ただ私は――
それがおかしいって言われていることを知っていても、ダメなことだと感じない。
教えてくれるのなら教えてほしかった。
彼は言う。
私じゃダメだと。
なぜダメなんだろう。
ほかに好きな人がいるから? もう恋をしているから?
それだと、どうして、誘いに乗ってくれないんだろう。
それと、これとは、違うものなのに。
そうして私は、それとこれとあれとを別々だと思ってるから、いろいろな部分で、汚れている。
おじさんが言う通り。生きているから、いろんなものと混ざり合って、汚れてく。
私は綺麗じゃない。
「うん?」
「私、白くないよ。絶対、必ず、少しずつでも確実に、濁っていってる」
「……」
「体も、心も。脳みそだって、黒くなってる。きっとおじさんより先にガンになる。体も、心も」
受け取り口には、先に入っていた車がいた。赤いテールランプの手前で、おじさんが停車する。その目は、わざと私を向いていなかった。見ててもおもしろくない赤い灯りを見つめている。
ねえ、テールランプは、おじさんにキスをしてくれないよ。
その頬に、私は手を伸ばした。ひげを剃ったのは朝なんだろう。少しだけ指先に引っかかりしょりり。一本一本、逆撫ですると、私の指先が快感に震えていた。
この人は生きている。私は、生きているけれど、実感がない。おじさんに触れている指先がようやく今、息吹いているおじさんに触れている指先だけが。
おじさんは、いやな顔ひとつせず、私に撫でられている。無感情に正面を見つめる切れ長の瞳が、よけいに私を誘った。
私は天使じゃない。人が、白と黒に混ざり合ってカフェオレになるのなら――私は生まれたときから黒側だったに違いない。
「おじさんは、私のなにが白いって言うの?」
「答えがほしいのかい?」
「ほしい」
おじさんの肌のぬくもりだって知ってる。
普通の女子高生が、奥さんのいるおじさんと付き合うことがおかしいことだって、知ってる。
そもそもこんな時間に、二人きりでいるのもおかしいって知ってる。
ただ私は――
それがおかしいって言われていることを知っていても、ダメなことだと感じない。
教えてくれるのなら教えてほしかった。
彼は言う。
私じゃダメだと。
なぜダメなんだろう。
ほかに好きな人がいるから? もう恋をしているから?
それだと、どうして、誘いに乗ってくれないんだろう。
それと、これとは、違うものなのに。
そうして私は、それとこれとあれとを別々だと思ってるから、いろいろな部分で、汚れている。
おじさんが言う通り。生きているから、いろんなものと混ざり合って、汚れてく。
私は綺麗じゃない。