偏愛ワルツ
おじさんが息をついた。そこに、白い煙はなかった。おじさんが言う汚れは、見えない。私にはそう、おじさんのなにが汚れているのか、本当はわからないんだ。
だって。
おじさんは私を綺麗だと言うのだから。
前の車が進み、そのままドライブスルーから出て行く。おじさんが車を進め、受け取り口につけた。
「……今日、帰りたくない」
「それはダメだ」
「どうして?」
「どうしても」
彼みたいなことを言う。
受け取り口は明るくて、私には眩しくて、逆光になったおじさんの輪郭が、黒い影になった。その輪郭を、私は見つめていられない。じっと、自分の膝を見た。寒くもないのに、プリーツスカートから少し覗く膝小僧は震えていた。
やがて、決して本心から出ているわけでもないのに、陰りのいっさい見えない笑顔の店員が、紙袋に入ったファーストフードを差し出してくる。
お金を払ったおじさんが、私に紙袋をパスした。あったかい。いいにおいがする。いまさらに、空腹が実感できた。でもそれが食欲に直結しない。胸につかえた思いが、空腹と食欲を繋ぐパイプにも、詰まっていた。
ドライブスルーを抜けたおじさんが、ウインカーを灯す。右へ曲がるらしい。そっちに、私達の住む街があるんだ。
どこに行ったって、変わり映えのないコンクリートとアスファルトが。
「帰りたくない」
「……」
おじさんは、黙ってハンドルを切った。
だって。
おじさんは私を綺麗だと言うのだから。
前の車が進み、そのままドライブスルーから出て行く。おじさんが車を進め、受け取り口につけた。
「……今日、帰りたくない」
「それはダメだ」
「どうして?」
「どうしても」
彼みたいなことを言う。
受け取り口は明るくて、私には眩しくて、逆光になったおじさんの輪郭が、黒い影になった。その輪郭を、私は見つめていられない。じっと、自分の膝を見た。寒くもないのに、プリーツスカートから少し覗く膝小僧は震えていた。
やがて、決して本心から出ているわけでもないのに、陰りのいっさい見えない笑顔の店員が、紙袋に入ったファーストフードを差し出してくる。
お金を払ったおじさんが、私に紙袋をパスした。あったかい。いいにおいがする。いまさらに、空腹が実感できた。でもそれが食欲に直結しない。胸につかえた思いが、空腹と食欲を繋ぐパイプにも、詰まっていた。
ドライブスルーを抜けたおじさんが、ウインカーを灯す。右へ曲がるらしい。そっちに、私達の住む街があるんだ。
どこに行ったって、変わり映えのないコンクリートとアスファルトが。
「帰りたくない」
「……」
おじさんは、黙ってハンドルを切った。