偏愛ワルツ
ももの上に乗せたファーストフードは、じわじわと私に熱を与えてくる。飲めはしないけど、コーヒーの香りが鼻に心地よかった。
鼻や肌を伝わってくる情報みたいに、私の気持ちあっさり証明されてしまえばいいのに。そしたらきっと、どんな街に行ったって、私はそこにさまざまな色を見出すことができるだろうに。
全部、私の夢想だ。
「……おじさんのほうが好き」
「ありがとう」
なにと比べて? そう訊かれなかった。たぶんおじさんはわかってない。天使ってなんだろう。おじさんにとって。白いってなんだろう。なにと比べて。なにを基準にしてその言葉はあって、どういう風に私を飾っているんだろう。
自分の中身が真っ黒だと思う私は、だけど私のなにが真っ黒なのかわかっていない。私が勝手にそう感じるだけ。おじさんが与えてくれる綺麗な言葉のおかげで、私は自分が白いのだと錯覚できる。
でも、それは、なに?
形容詞じゃない、言葉がほしかった。膝の上に乗っている紙袋からの熱じゃなくて、生きているぬくみに触れたかった。
シートベルトが、邪魔。
「それを食べたら、どこまで送ればいいかな」
「……帰りたくないよ?」
私の願いは、おじさんに伝わらない。おじさんが言う白さも、今日の私には響かない届かない染み込まない。
踏まれた雪は白に戻れない。
「私はおじさんがいなくちゃ白くなれない」
「ありがとう」
お礼を言われる意味がわからないまま、私とおじさんは、私達の街で別れた。
コーヒーは結局、一口も飲まずに。
鼻や肌を伝わってくる情報みたいに、私の気持ちあっさり証明されてしまえばいいのに。そしたらきっと、どんな街に行ったって、私はそこにさまざまな色を見出すことができるだろうに。
全部、私の夢想だ。
「……おじさんのほうが好き」
「ありがとう」
なにと比べて? そう訊かれなかった。たぶんおじさんはわかってない。天使ってなんだろう。おじさんにとって。白いってなんだろう。なにと比べて。なにを基準にしてその言葉はあって、どういう風に私を飾っているんだろう。
自分の中身が真っ黒だと思う私は、だけど私のなにが真っ黒なのかわかっていない。私が勝手にそう感じるだけ。おじさんが与えてくれる綺麗な言葉のおかげで、私は自分が白いのだと錯覚できる。
でも、それは、なに?
形容詞じゃない、言葉がほしかった。膝の上に乗っている紙袋からの熱じゃなくて、生きているぬくみに触れたかった。
シートベルトが、邪魔。
「それを食べたら、どこまで送ればいいかな」
「……帰りたくないよ?」
私の願いは、おじさんに伝わらない。おじさんが言う白さも、今日の私には響かない届かない染み込まない。
踏まれた雪は白に戻れない。
「私はおじさんがいなくちゃ白くなれない」
「ありがとう」
お礼を言われる意味がわからないまま、私とおじさんは、私達の街で別れた。
コーヒーは結局、一口も飲まずに。