偏愛ワルツ
フラフープに失敗したように、足もとへ歪な円に落ちたスカートを眺めながら、

「ねぇ、おじさん」

「なんだい」

「キスって、好きな人とするんだってさ」

あの教室で、唇を奪い損ねた彼の言葉を、口にしてみる。

おじさんは、白い煙を長く、長く吐き出した。それがなにかに凍えて見えたのはたぶん、私だけの錯覚だ。

「幻想だね」

「そう思う?」

「ああ。キスは好きな人とするものじゃない。好きなものを味わいたいとする、欲望の捌け口だよ」

「……じゃあ、私は欲望にまみれるね」

「……」

「おじさん。いいよ。私を汚しても」

いずれ、私は悪女になるんだから。

下着姿の私は、そして、お得意とばかり笑ってみせた。

「ねぇ、上と下、どっちから脱いでほしい?」

彼はちゃんと、私の八重歯を見てくれただろうか。



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