ジュエリーボックスの中のあたし
橘という男、加奈子という女
「やあっと美里(みさと)に会いに来れたよー。」
「あたしも会いたくて待っていたんですよ。」
「またまたあ。嬉しいことばっか言ってくれるなあ。リシャール入れるかなあ。」
その夜もあたしは出勤。
いつもと変わらない夜。いつもと変わらない生活。
あの日、あたしがユキに恋していたことを認識した夜からも、あたしの生活は何一つ変わってはいなかった。
ユキとあたしは相変わらず。
夜ごはんをいっしょに食べて、それからテレビを見て、ユキはあたしを膝の上に乗せたがり、匂いを嗅いだり。肩に頭をのせたり。
それから個々にお風呂に入ったり、ヨガをしたり(これはあたし)、ボーっとしたり(これはユキ)。
そして寝るときはいっしょに布団に入ってそのまま眠る。
例えあたしがまだ眠くなくてもユキが寝る時は必ずベッドにずるずる引きづられて一緒に眠る。
何も変わらない。
変わったことがあるとするなら、あたしは以前よりアフターを断る回数が多くなったこと。
そして自分の部屋よりもユキのマンションへ行く回数が断然に増えたことだ。
少しでも多くユキに会いたい。少しでも多く一緒にいたい。