【企画】落下した青で窒息死
けれど、その日。
彼は現れなかった。
連絡ひとつなかった。
開かないドアを見つめ続けた誕生日は、私に孤独だけを残して去って行った。
どうして。
彼は私のことなど忘れてしまったのだろうか。
寂しさに支配された私は、それが悔しくて、やりきれなくて、
気がつけば早朝だということも忘れて携帯をつかんでいた。
ずっと遠慮して押せなかったボタンが、いとも簡単に押せた。
コール音と一緒に、心臓の音を耳元で聞いた。
そして。
「どうしたの」
彼の第一声。
いつもと変わらないのんびりとした口調が許せなかった。
それまでの寂しさが怒りとなって、せきを切ったようにこの口からは言葉があふれ出した。
どうしたのじゃない、今日が、いやもう昨日だ、昨日がなんの日だったか忘れたの、私ずっと待ってたのにどうして来てくれなかったの、来てくれなくても連絡のひとつくらいくれてもいいじゃない、そうよ、どうしていつもメール返してくれないの、そんなに忙しいの、私だって忙しいけど連絡してるのに、時間を作ってるのに、私だけなの、どうしていつも私だけなの、私ばっかり、私は勝てないの、私よりそんなに仕事が、ああ、いやだ、もう疲れた、私あんなに頑張ったのに、どうして、どうして、どうして。……
氾濫した感情に溺れる女の話を、きっと彼は他人事のように、
きょとんとした表情で聞いていたに違いない。
何も言わない彼にますます目の前を真っ赤にした私は、
「あんたなんかカメラと結婚してしまえ!もう知らない!」
と、なんとも頭の悪い捨て台詞を吐いて、家を飛び出したのだった。