悲しき恋―時代に翻弄されて―
「そなたはどこの出身ですか?」
「ポルトガルです。」
「そこは遠いのですか?」
その問い掛けにバテレンは笑みを見せて頷いた。
「海を何日、何月と渡って参りました。」
「そうですか。…ポルトガルとはどのようなところなのですか?」
尾張から出たことが一度もない千与は、遥か遠くにあるその国に興味を示さないわけがなかった。
「そうですね、私の祖国はキリシタンの国で…」
彼の話に吸い込まれ、遠い異国を想像する。
「わらわも、ポルトガルに行ってみとうございます。」
そう千与が言うと、バテレンは微笑んだ。
「是非。私も故郷をそう言って頂けて嬉しゅうございます。」
自分の生まれ育った祖国を、異国の地に行きたいと言われ、嬉しくないわけがなかった。
「そうだ。まだ、名乗っておりませぬな。わらわは千与と申します。そなたは?」
「名乗るほどの者ではございませぬが…ジョゼと申します。」