悲しき恋―時代に翻弄されて―
ミサを終え、千与は南蛮寺を出ようとするとフロイスに呼び止められた。

「エバ、」

「はい?」

「そなたは、何故そんなに悲しそうな顔をしておられるのです?」

「―それは、」

戸惑ったがここは神聖なる南蛮寺、神の御前。
嘘は決してついてはならぬ場所。

千与は重い口を開いた。

「わらわは武家の娘。父上は戦になれば毎度出向き、いつその命が失うやも知れぬ、そう思うと苦しいのでございます。そして、わらわには恋い慕う男子もいて彼もまた武士。戦の度に、わらわは涙を堪えることが出来ぬのです。」

「―この世で最もあってはならぬのが戦。私もそう思います。皆、神から生を受けた兄弟のようなもの。それなのに、戦をするなどと人間は愚かです。
されど、いつかその愚かさにみな気付かむ。」

フロイスはそう言うと踵を返し神殿の十字架に手を組んだ。そして目を閉じ、祈りを捧げた。どんな祈りかは彼にしかわからないことだが、きっと平和を、いつか平穏な時代が来ることを祈っていたのでしょう。
もう誰も、戦のせいで嘆き苦しむことがないように。

でも―その祈りは今なお、叶えられていない。平穏が地球に訪れるのは不可能なのか。
青い薔薇が決して咲くことはない、不可能だと言われていたのに今は科学の進歩で可憐に咲いている。

"不可能"など本当は存在していない。そう信じたい。
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