悲しき恋―時代に翻弄されて―
眠りから覚めると青い空がほんのり紫がかっていて、彼女は長い時間眠っていたと理解した。

「―帰りとう、ないな」

さざ波に消え入りそうな小さな声で、そう呟いた。

帰ればまた戦へ向かうと言われるかもしれない。
夢がまた現実になるかもしれない。

それが堪らなく怖かった。


「お主、ここでなにをしておる?」

その聞き慣れない声が後方から聞こえ、彼女は勢いよく振り返った。そこには老婆。

「あ、少し休んでおりまして…」

「見慣れぬ顔だな、どこの者じゃ?」

「尾張でございます。ここから少し歩くのですが、」
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