悲しき恋―時代に翻弄されて―
そう彼女が答えると老婆は優しく微笑み、彼女の元に向かう。

「風邪をひいたらどうするのじゃ、もうじき夏じゃが用心せねばならぬぞ。」

「…はい。」

千与がそう頷くと、老婆は小さく笑いまた口を開いた。

「どうじゃ、わらわの家はすぐそこ故来ぬか?」

「よろしいのですか?」

「ああ。これからあっという間に夜が訪れる。ここから暗い道をか弱い女子を一人で歩かせるのは気が引ける故、老婆の我が儘じゃ。どうか一晩泊まれよ。」

「…ありがとうございます。」
< 54 / 76 >

この作品をシェア

pagetop