悲しき恋―時代に翻弄されて―
老婆の提案で千与は彼女の家へ向かった。初めての、外泊。

「ここじゃ、入られよ。」

海の近くに佇む、こじんまりとした家。

「はい。」

薄暗い家の中には誰もいなく、老婆の一人暮らしだと悟った。

「わしは夫を早う亡くして、この家にずっと一人で住んでおる。だから気など使うでないぞ。」

老婆はそうどこか悲しげな笑みを浮かべた。

「…夫を、早くに…、」

「ああ。戦でな、まだ18程でお主と同じ位じゃった。」


その言葉に千与は俯いた。その言葉は彼女にとって悪だった。

「夫は、それはそれは強く大名にも気に入られておった。わしは、いつも戦へ行く夫の後ろ姿を見ることなど出来なくての…今でも夫を奪った戦が憎くて堪らぬ。」

畳の上に置かれたそのしわしわの拳が小さく震えていた。
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