悲しき恋―時代に翻弄されて―
「―わらわも、同じです。」

千与はその重い口を開き同意の言葉を発した。

「わらわは、武士の娘。戦をせねばならぬ家に生まれました。されども、戦を憎いと思うておるのです。早う戦のない世になってくれるように祈っておりまする。されど、」

いつになってもその祈りが通じない。
そう言葉にしようとすると、その言葉より先に喉の奥が熱くなり、涙が視界を歪ませる。

「―そなたが戦を恨むのは他にも理由があるのじゃろ?」

優しく問い掛ける老婆。そして続けて言う。

「そなたは、あの遠き頃のわしと同じ瞳をしておる。」

最愛の人の命がいつも危険に晒される恐怖。いつ散るかわかららないその命。

いつになっても、終焉が訪れない戦。

「―そなたも、契りを交わしたお方を戦に奪われるのか、不安なのか?」

千与はその言葉に小さく頷いた。
< 56 / 76 >

この作品をシェア

pagetop