悲しき恋―時代に翻弄されて―
千与はいつも意地を張る。本当は泣きたいときでさえも、誰かの前では涙を見せない。いかなる場合でも。
そんな千与を、本当は弱い彼女を守りたい。それは由親の本心。
由親は本当に穏やかな性格で、それは武士だとは思えない程。誰かを斬るなんて真似、心優しい彼にできるのか。だれもがそう疑問を抱いていた。
でも、彼は地侍でも立派な武士。いつかは天下を取りたい、と心の隅でそんな野望を抱いている。
「由親、千与は確かに女子じゃ。だからと言ってなぜ、女子という理由だけで…肩身の狭い思いをしなければいかぬのだ。」
―政略結婚、父上の為とは言っても由親以外の人の元に嫁がなければいけないのか。
ただそれが堪らなく千与には辛かった。いつか誰かの元に嫁ぎ、由親と離れるときが来る。
いつか、…そのいつかが来るのが怖い。逃げ出したい程に。
千与は下唇を噛んだ。