悲しき恋―時代に翻弄されて―
「―天罰かと思うた。」

まさか、千与の頭に不幸が過ぎった。

「死んだよ。」

ああ、やっぱり…

「貧しくてね、夫を亡くし親からは勘当され。わしは養うが為精一杯働きて、されども、足りず。」

お一の皺やシミが目立つ頬に一粒の涙が伝った。

「―2つだったよ。」

「え?」

「命さ。あの子はたった二年しか生きれず、わしは怨んださ、貧困を。小作人に貰える食料はたかが知れておる。」

二年、これからいろいろなことを知り、少しずつ大人に近づいて、色恋で悩んだり、なにも出来ずに天に召された赤子。無念でしかたがないはずだ。

そして母であるお一。
これから訪れる赤子との二人きりの生活。苦労が山積みでも、きっと希望があったはずだ。一緒になんでもない事で笑い、泣き、そしていつか色恋の相談を―…。

そんな当たり前の欲が永久に叶わない。残忍なことだと心の底から思った。
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