【唯我独尊カレシ。】俺様*オマエ*まるかじりッ
知られざる値
気付いたら、朝になってた。
記憶はすっぽりと抜けていて、目を開けたらパジャマ姿で布団にいた。
「夢……」
カラカラの喉から出た声は酷く、自分の声じゃないみたい。
勝手に動いた唇には、まだ昨日の感触が残っている。
「……ない」
夢じゃない。
秋月会長との、キス。
感触は現実。
記憶も、本当は抜け落ちてなんかいない。
ただ現実味がなく、私じゃない他の誰かの記憶を見てるみたいな気分でいるだけ。
思考回路がショートしてしまわないよう、負荷をなるたけ軽減しようとしているのだろう。
だから夢みたいな感覚になっているんだと思う。
そういやあれは私のファーストキスなんだよなとか、
秋月会長の唇は意外に温かかったなとか、
そういうもので脳の許容量は超えてしまった。
だけど日常的に行ってたことは、無意識にこなしていたから、
一足飛びで朝になった感じ。
「あ、今日から20分、早いんだっけ……」
あのキスの意味は、秋月会長からは何も釈明がなかった。
顔が合わせにくいけど、一夜経った事でひょっとしたら秋月会長から何か言われるかもなんて、
思ってみたり。