【唯我独尊カレシ。】俺様*オマエ*まるかじりッ
つい懐事情まで喋ってしまった。
恩人にケチるようなことを言ってしまい、しまったと思ったけれど、彼は気にしていないようだ。
自分もそのくらいの年頃はそうだったなーなんて、懐かしそうに頷く。
「うんうん、学生さんだもんね。じゃあ――」
男性が何か言いかけたところで、何かのメロディーが聞こえた。
どうやらそれは男性のケータイだったようで、ごそごそとポケットを探っている。
ケータイを探し当て、ディスプレイを見た彼は、小さく声を上げた。
「うわー、忘れてた!
ごめん。オレ用事あるのすっかり忘れてた……」
ケータイを持ったまま、手を合わせて申し訳なさそうにした彼へ、私はぶんぶんと首を横に振りながら慌てて返す。
「いえ……! すみません。本当にありがとうございました」
「本当にごめんね。じゃ、気をつけて!」
ばいばい、と私に向かって手を動かしながら、もう片方の手は鳴りっぱなしだったケータイに。
電話に出た彼はもう歩き出してて、こちらを見てはいなかったけど、私は頭を下げて感謝の意を示した。
反対側へ歩き出し、恩人の名前すらきいていなかったことに気付いたが、振り返った頃にはもう彼の姿は見えなくなっていた。