【唯我独尊カレシ。】俺様*オマエ*まるかじりッ
歩道に座り込む彼を、私が車道にはみ出るようにして遠巻きに歩いたとき、
視線の端に入ってきたのは、彼に抱きしめられた、真っ白な猫だった。
正確には、真っ白だったらしい、猫。
おびただしい程の血が猫を染め上げていて、私は思わず息を詰まらせた。
地面にも、車道側から続く血があるのを見たとき、
ヒッという、もはや声とは言えないような悲鳴が、ひどく近くで聞こえてきた。
私以外の誰かが漏らしたものだと思ったけど、それは私が出したものだったらしい。
周りには誰もいなかったし、彼がこちらを見上げたから。
ばちん、と目が合った。
本当にそんな音が聞こえそうなくらい、彼は正面に私の顔を捉えていた。
真っ直ぐ、私を見てた。
そして、悲しそうに、笑った。
それは私に向けられたものだとはっきりしてたから、私は無言でその場を立ち去ることが出来なくて、
恐る恐る彼に話しかけた。
「あなたの、猫なんですか?」
問い掛けに、彼はますます悲しそうな顔をして、ふるふると力なく首を振った。
そして静かな柔らかい声が、彼の口から発っせられた。
「首輪がないから、ノラかも」