金魚玉の壊しかた
「これまで隠してきて申し訳ございません。しかし私は──」


もしも、


虹庵が結城家を出た身分ではなく、円士郎のように跡取りであったならば──

雨宮の家を救うことができる。


「私は、かつての威光を失った雨宮の家を守るための縁組みをせねばならぬ身なのです」


しかし、元は名家の生まれとは言え、
一介の町医者にすぎない彼に嫁いだのでは、


雨宮家が失った名誉も、地位も、のしかかる借金も、どうにもならない。


「私は──」


市井の人々の命を救うために尽力している虹庵に、身分に関するこんな言葉を浴びせねばならないとは……。

泣きたくなるのを必死に我慢して、


「私は……っ」


震える声で、彼に伝えた。


「私は、虹庵殿のもとに嫁げば、きっと幸せになることができる」


切ないほどに、

彼と歩む道の先にあるものはハッキリと見えた。
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