金魚玉の壊しかた
諸君らの言葉では灯台もと暗しとでも言うのか。

依頼主は私の住まいのすぐ斜向かいにある町屋に住む、黒田虹庵という町医者で、
まだ若いが近頃巷では評判の蘭方医だった。


人柄も良く整った顔立ちの好青年といった感じの男で、私はこの医者に好感を持った。

部屋に飾る掛軸を頼むとのことだったので、図柄の希望を聞くと任せると言う。


散々思案を重ね、
果ては捕まえてきた鯉と蛙との腹を自分で捌いて眺め──


鯉と蛙とが互いの腹の中を見て
驚き、
笑い合っている──
という図を完成させた。


ううむ、我ながら力作。


さしずめ、

『鯉蛙腹の内の図』

というところだろうか。



ちなみに捌いた鯉は、ちゃんと私が美味しくいただいた。

大きな蛙のほうは……
綺麗に皮を剥いて塩焼きにしてはみたものの食べる気になれず、結局近所の猫に与えたが。

しかし猫が美味しそうに食べていたのを見ると、次はしっかり煮込んで食べてみようかという気もする。

……見た目は鶏肉に似ていたし。

屋敷にいた頃は料理などしたこともなかった私だが、この二年の町屋暮らしの間に、近所のおかみさんに教えてもらったりして、今では一通りできるようになっていた。



さて、

私が出来上がった掛け軸を持っていくと、虹庵は


「君は蘭学を学んだことがあるのか?」


と驚いた様子で言った。

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