金魚玉の壊しかた
蘭学というのは、
諸君らも知る通り、オランダから入ってきた西洋の進んだ学問のことである。

「いいや」

私は虹庵の問いに対して首を横に振った。

「蘭学について本格的に学んだことはないな。
家にあった本草学の書物なら読んで育ったんだがね」

本草学は、我々の時代の博物学のようなもので、雨宮の屋敷には祖父が収集した動植物学を扱った書物が多くあった。

私が生き物に興味を持って、こんな絵を描くようになったのも幼い頃からそんな書物に囲まれて育ったためだろう。


「本草学を? 君はひょっとして漢文が読めるのか!?」

「まあ、一応」


驚いた様子の虹庵を見て、内心しまったと思いながら私は答えた。


確かに家にあった本草の書物はどれも漢文で書かれたもので、それは普通の町娘がホイホイ読めるようなシロモノではなかったのかもしれないと思った。

諸君らの感覚で言えば、研究で大学生が扱う専門英語の論文を読んで育った、とでも告白してしまったようなものだろうか。


私は市井に身を投じてから、自分が武家の──雨宮の人間だということを隠していたし、この新しい環境の人々には知られたくなかった。

忘れていたかったのかもしれない。
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