金魚玉の壊しかた
しかし、漢文が読めるなどと口走ってしまっては……

武家の女ではないかと、要らぬ詮索を受けるような気がした。


実際、虹庵は私をじっと見つめ、しばし何事か考えを巡らせているようだった。
──が、

結局、おそらく何かワケアリだと想像したのだろう。

虹庵は私の身分などについて突っ込んで訊いてくるようなことはなく、

代わりに、

「君はこの蛙と鯉の腹の中身を、どのようにして知って描いたのかね?」

彼が私にしてきたのはそんな質問だった。


どのようにしてって──


そりゃ腹を捌いて、実物をようく見ながらに決まっていると、私がその問いのばかばかしさに呆れながら答えると、

虹庵は膝を叩いて興奮したように

「君のその『考え方』『物事の捉え方』は貴重かもしれない」

と言った。


そして


「私は長崎で異国の書物を見る機会があったのだが──、

君が描いたこの蛙と鯉の臓腑の正確さは、その異国の書物に描かれた図に良く似ているんだ」


彼はそんなことを言った。


私は「へえ」と思って、
その異国の書物とやらが一体どんなものなのか興味が湧いた。
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