金魚玉の壊しかた
「この世の終わりみてェな様子だな」
どれくらいの間一人座り込んで長屋の床を眺めていたのか──
頭上から落ちてきた声に、私は驚いて顔を上げた。
「遊水……」
我ながら情けない声しか出なくて、そのまま身が竦んで表情が強ばった。
いつからそこに立っていたのだろう。
雨音が小さくなっているのに気がついた。
開きっぱなしだった戸口は閉まっていて、上がり込んだ遊水は私のすぐそばに佇んでこちらを見下ろしていた。
何か、
何か言わなくては……
遊水に見つめられて、必死に言葉を探したが何も出てこなくて
私が格闘していると「なんだ?」と言いながら、遊水が座った。
白い顔が近づいて、彼が笑っているのがわかった。
「俺が戻ってこないとでも思ったのかい?」
遊水はいつもこういう時に彼が口にする皮肉っぽい響きではなく、優しい声音で言って微笑んだ。
「亜鳥から預かっていた絵が売れたぜ。他にも頼みたいと言ってたから、ここを教えておいた。
今日はそれを伝えに来たんだ」
彼は黙っている私にそう告げて、どこどこの武家の何某という御仁と何某という御仁で、どちらも蘭学に興味があるお人で……などと説明した。
私はそんな彼をぼうっと見つめた。
「どうして……」
思わず、呟きが漏れた。
「ん?」
「どうして、何も言わないのだ?」
私は再び流れそうになる涙を必死にこらえた。
「どうして、私を責めない!?」
どれくらいの間一人座り込んで長屋の床を眺めていたのか──
頭上から落ちてきた声に、私は驚いて顔を上げた。
「遊水……」
我ながら情けない声しか出なくて、そのまま身が竦んで表情が強ばった。
いつからそこに立っていたのだろう。
雨音が小さくなっているのに気がついた。
開きっぱなしだった戸口は閉まっていて、上がり込んだ遊水は私のすぐそばに佇んでこちらを見下ろしていた。
何か、
何か言わなくては……
遊水に見つめられて、必死に言葉を探したが何も出てこなくて
私が格闘していると「なんだ?」と言いながら、遊水が座った。
白い顔が近づいて、彼が笑っているのがわかった。
「俺が戻ってこないとでも思ったのかい?」
遊水はいつもこういう時に彼が口にする皮肉っぽい響きではなく、優しい声音で言って微笑んだ。
「亜鳥から預かっていた絵が売れたぜ。他にも頼みたいと言ってたから、ここを教えておいた。
今日はそれを伝えに来たんだ」
彼は黙っている私にそう告げて、どこどこの武家の何某という御仁と何某という御仁で、どちらも蘭学に興味があるお人で……などと説明した。
私はそんな彼をぼうっと見つめた。
「どうして……」
思わず、呟きが漏れた。
「ん?」
「どうして、何も言わないのだ?」
私は再び流れそうになる涙を必死にこらえた。
「どうして、私を責めない!?」