金魚玉の壊しかた

長屋の中の藍色の光は、夜の黒い闇に変わろうとしていた。


いつの間にか雨音が止んでいた外で低い雷の音がした。

ぱららっという、瓦で雨粒の弾ける音が屋根の上から聞こえて、再び雨音が辺りに満ちた。



長すぎる沈黙に不審を覚え、私は遊水の顔を覗き込んだ。





「家老の──雨宮──!?」





暗闇の中に浮かび上がった、私を見つめ返す白い顔には、引きつったような笑みがあった。





「冗談だろう……？」





遊水は、明らかに
驚愕し、
動揺し、
狼狽していて、

幽霊でも見るかのような、怯えた眼をしていた。


彼がそこまで色を失って私にそんな目を向ける理由がわからないでいると、遊水の体から小刻みな振動が伝わってきて、

くくく……と、彼が狂気じみた笑いを漏らした。



「そうかい！　エンシロウサマ、そういうことかい……！」



遊水は金の髪を揺らして嘲笑し、片手の甲を両目の上に置いて双眸を隠した。



「確かに許されねえ……！　俺が手を出しちゃいけない女(ひと)だ──」