金魚玉の壊しかた
「三家からの申し込みだが、無論中老の泉殿のお話を受けるぞ。家老家ではないのが残念だが、この際贅沢は言っておれぬ。着座家に嫁げば、これで雨宮家も威光を取り戻せるというもの」

泉殿か。
数日前に訪ねてきた本人を思い浮かべる。

いい年をしたオッサンだったが……
ううむ、まあダンディなオジサマと言えなくもない感じだったかなと、私がそんなことを思っていたら、兄が渋い顔をした。

「泉殿は今年で御年五十近い御仁ではありませんか! しかも先の奥方との間には亜鳥よりも年上の御子がおありと聞き及びますぞ。そもそも雨宮の家から後妻など……!
一番亜鳥と近いお年の御仁ならば、坂倉殿の御嫡男でしょう」

「坂倉家は番頭の家格に過ぎぬではないか」

「亜鳥は、どうなのですか? 実際お会いして、どなたのもとに嫁ぎたいと思いましたか?」

母が、私を見つめて、娘の幸せを願う有り難い質問をしてきた。

けれど、私には誰に嫁ごうが同じことだった。
本当に思う人は他にいる。


「どなたでも」


私は深々と頭を下げて言った。


「亜鳥は、雨宮家のためになる方のところにならば喜んで嫁ぎます。
幸い、どの御仁も蘭学や絵にはご興味のあるご様子。ご趣味が合う御方のもとに嫁ぐのですから、幸せになれましょう」

殊勝な心がけじゃと叔父が頷き、それならば良かったと母が嬉し涙を流し、嫁いだ先でまで絵を描いて過ごすつもりかと兄があきれて、


結局お相手選びは彼らの話し合いに委ねられ、

最終的には叔父が意見を通して、最も家格の高い泉家の話を受けることに決まったのだった。
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