金魚玉の壊しかた
ある日の午後、
私が借りていた書物を返しに虹庵の所を訪れると、
彼は私に墨絵の描かれた一面の扇を見せ、
絵師の君から見てこの絵はどうか、と訊いてきた。
扇の片面に描かれていたのは、
墨の濃淡のみで描かれているのに、まるで薄紅色の色合いを見ているかのような──
筆遣いと言い、
構図と言い、
なかなか見事な桜の花だった。
ひっくり返すともう片面には、やはり思わず唸らされるような
見事な蓮の花が描かれていた。
「人の絵をどうこう言える程、図画の道を究めた立場ではないが──単純に感想を述べるなら、良い絵だと思うな。
勢いがありながらも繊細な絵だ」
私はそう答えて──首を捻った。
桜と蓮。
自分が知る限りの漢詩や故事、その他諸々の和漢の古典を思い浮かべてみたが……
どうして桜と蓮なのか。
この絵の作者が、何にちなんでこの二つの花を扇の両面に描いたのかわからなかった。
「名のある絵師が描いたものかな? 誰の作だ?」
私が尋ねると、虹庵は笑って、
「いやいやこれは私の甥が描いた絵なんだ」
と答えた。
私が借りていた書物を返しに虹庵の所を訪れると、
彼は私に墨絵の描かれた一面の扇を見せ、
絵師の君から見てこの絵はどうか、と訊いてきた。
扇の片面に描かれていたのは、
墨の濃淡のみで描かれているのに、まるで薄紅色の色合いを見ているかのような──
筆遣いと言い、
構図と言い、
なかなか見事な桜の花だった。
ひっくり返すともう片面には、やはり思わず唸らされるような
見事な蓮の花が描かれていた。
「人の絵をどうこう言える程、図画の道を究めた立場ではないが──単純に感想を述べるなら、良い絵だと思うな。
勢いがありながらも繊細な絵だ」
私はそう答えて──首を捻った。
桜と蓮。
自分が知る限りの漢詩や故事、その他諸々の和漢の古典を思い浮かべてみたが……
どうして桜と蓮なのか。
この絵の作者が、何にちなんでこの二つの花を扇の両面に描いたのかわからなかった。
「名のある絵師が描いたものかな? 誰の作だ?」
私が尋ねると、虹庵は笑って、
「いやいやこれは私の甥が描いた絵なんだ」
と答えた。