金魚玉の壊しかた
ちょうどその頃、城下では連夜辻斬りが横行してちょっとした騒ぎになっていた。


どういった理由なのか腕に覚えのある者ばかりが狙われるという噂で、だとすると武芸に長けた者以外は自分が標的になる心配はない。

己には関係ないこととなると、人間というものは好きに騒ぎ立てるもので、絵草紙は事件を面白おかしく書き、芝居小屋でまで役者が演じる始末。


私もおかげで絵草紙屋に、斬られて臓腑のはみ出した生々しい死体の図を描いてくれなどと言われ……


……まあ、懐は温まったが。


しかし噂は噂。
実際のところ辻斬りが女子供を狙わないとも限らないし、なにしろ女の一人暮らしだ。

用心するに超したことはないと、私も夜歩きなどは極力控えていた。


その日は、虹庵を通じて入った仕事の依頼で、夜遅くまで下図を描いていた。

これは夜を徹した作業になりそうだと、明かりを皓々と灯して没頭していて──子の刻も過ぎ、草木も眠る丑の刻にさしかかったかという時分のことだった。



突然、私の住む長屋の戸が、外から勢いよく開けられた。

私はしっかり戸締まりをしていたので──正確には開けられたと言うより──


──何者かが、外から戸をぶち壊して開けた


と言うべきかもしれない。


作業に集中していた私は唖然としながら、顔を上げて戸口を見て──

見知らぬ若い男が一人、夜陰を背負ってそこに立っているのを認めた。


「おう、邪魔するぜ」

言いながら、男は

我が物顔で
勝手に
さもそれが当然だと言わんばかりに

私の家に入ってきた。


そいつは戸口をくぐると、これまた何食わぬ顔で自らがぶち壊して開けた戸をがたがたと閉めて、


「ん?」

筆を握ったまま固まっている私を見て、不思議そうな顔になった。
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