金魚玉の壊しかた
「ここって、妖怪絵師の佐野鳥英って奴の家じゃねーの?」
男の口にした佐野鳥英という名前は、絵師として私が名乗っている名だ。
雨宮家の知行地に佐野村という村があったので、「佐野」はそこから、
「鳥英」は私の本名を文字った画家としての号だが──
「いかにも、佐野鳥英は私だが」
憮然としながら私は言った。
「妖怪絵師ではない。生き物絵師だ」
こんな時でも、そこはしっかり訂正しておいた。
私が名乗ると、見知らぬ男は土間に立ったままポカンとした。
若い男は、見たところ武士だ。
しかし月代は剃っておらず、傾き者といった風体で、
そして服装は何故か道場で着るような稽古着姿だった。
腰には二本差し。
……それがこの場合、一番問題の気がした。
「佐野鳥英って女かよ!?」
目を丸くする男に、
「……何だお前は?」
と尋ねてから──、私は考えを改めた。
「いや、訊く必要はないな」
刻限は深夜。
戸を叩いて声をかけるという部分をすっ飛ばし、
他人の家に戸をぶち破って侵入。
しかもどうやら一人暮らしと知った上でだ。
腰には刀。
こちらは丸腰。
ついでに向こうは男でこちらは女。
そして世間では辻斬りが横行中……となれば、だ。
私はことりと筆を置いて立ち上がった。
「しばし、待っていたまえ」
土間に立った男にそう言ってから台所に向かい──、
先ほど絵にするための蛇を捌いたばかりの包丁を手に取った。
男の口にした佐野鳥英という名前は、絵師として私が名乗っている名だ。
雨宮家の知行地に佐野村という村があったので、「佐野」はそこから、
「鳥英」は私の本名を文字った画家としての号だが──
「いかにも、佐野鳥英は私だが」
憮然としながら私は言った。
「妖怪絵師ではない。生き物絵師だ」
こんな時でも、そこはしっかり訂正しておいた。
私が名乗ると、見知らぬ男は土間に立ったままポカンとした。
若い男は、見たところ武士だ。
しかし月代は剃っておらず、傾き者といった風体で、
そして服装は何故か道場で着るような稽古着姿だった。
腰には二本差し。
……それがこの場合、一番問題の気がした。
「佐野鳥英って女かよ!?」
目を丸くする男に、
「……何だお前は?」
と尋ねてから──、私は考えを改めた。
「いや、訊く必要はないな」
刻限は深夜。
戸を叩いて声をかけるという部分をすっ飛ばし、
他人の家に戸をぶち破って侵入。
しかもどうやら一人暮らしと知った上でだ。
腰には刀。
こちらは丸腰。
ついでに向こうは男でこちらは女。
そして世間では辻斬りが横行中……となれば、だ。
私はことりと筆を置いて立ち上がった。
「しばし、待っていたまえ」
土間に立った男にそう言ってから台所に向かい──、
先ほど絵にするための蛇を捌いたばかりの包丁を手に取った。