金魚玉の壊しかた
私も武家の女だ。
多少の武術の心得はあるとは言え──

どうもこの相手との力量の差は、そういう段階を遙かに凌駕していたようだった。

こうして押さえつけられてしまえば、所詮は女の細腕。
もはや抗う術もない。


「目的は何だ!? 見てのとおりの女の一人暮らし、金などないぞ!」

「だから違うって!」


わめく私にそう繰り返して、

私の上で体を震わせ、くっくっく……と男はさも可笑しそうに笑い始めた。


「いや~驚いたぜ。
鳥英が女だってのにも驚いたが、まさかこんな物騒な女だとは──

──しかも、とびきりいい女だ」


組み伏せられたまま、背後から耳元で男がそう囁くのを聞いて、私はぎくりと身を強ばらせた。

これまでは生命の危険のほうが先立っていたが、ここに至って今度は女としての身の危険を感じた。


そんなこちらの気を知ってか知らずか、若い男はのん気に、

「ん~、虹庵先生の話から、てっきり佐野鳥英ってのは男かと思ってたんだがな」

と呟いた。


「虹庵先生だと? ……貴様、先生の知り合いか?」


知人の名前を耳にして、ようやく私は体から力を抜く。

それを見てとった男が手を離して、私を解放した。


「ふう、ビビったぜ」

そう言いながら身を退いて、男は土間に立って私から奪い取った包丁を弄んだ。
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