金魚玉の壊しかた
「すまない」

ややあって、彼は私のよく知る、優しくて悲しそうな声で謝罪して、私のそばに屈み込んだ。

「酷な話をした」

そう言って私の涙を抜き取る手は、切ないくらい温かく優しくて、私はまた胸を締めつけられた。


「上へ戻ろう」

立てない私を抱え上げて、
彼は蝋燭をその場に残し、暗い階段を上へと登っていった。


私は彼の肩にしがみついて泣き続けた。




蔵を出る前に再び覆面をつけた彼に抱えられ、寝所に戻って──



ここで待っていろと言われ、私は先程と同じように薄暗い部屋の中に一人座っていた。


政敵のもとに嫁ぐことに対してそれなりの覚悟はしていたものの、まさかこんな現実が待ち受けていようとは。

この後、彼はどうするつもりなのだろう。

本当ならば初夜のはずが、私はすっかり睦みごとどころではない気分になってしまっていたし、私をおいて部屋を出ていった彼からもそんな様子は感じられなかった。



頑なな彼の態度が気になった。



そして私の嫌な予感は的中する。
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