金魚玉の壊しかた
「私は、お前が望むのならばあのままでも良いかと思った。あの長屋で、ただの遊水として、お前の想いに応えるという選択もあると思った」

しかし、と言って、彼は金の睫毛に覆われた目を閉じた。

「お前は、私との関係を続けることよりも、武家に生まれた者としての生き方を選んだ。
だから私も、伊羽青文としての道を選ぶことに決めた」

再び瞼が開かれ、緑の宝石のような瞳が刺し貫くように私を見据えた。


「さあ、斬れ!」


と、聞き慣れた声が、聞き慣れぬ口調で命じた。


「ここにいるのはお前と雨宮家の仇だ、斬れ」


青文の手が刃をつかみ、その喉元に切っ先を持って行った。

仄暗い灯りの中で、刀を握る彼の手から赤い血が鋼を伝い流れ落ちてゆく。


「あなたは──」

私の声は震えた。

「あなたは、最初からそのつもりで……私を、妻に──」

愕然とした。

「では──では──」

先刻の会話と、私の問いに対してすぐにわかると返した青文を思い出した。

「囲っていた妾全員に暇を与えたのは……このためか」

今日、
この場で、
死ぬつもりだったから──



覆面の下に隠されていたのが、遊水の顔だったと知って、
彼の正体が伊羽青文だと知って、

私は一瞬、彼が、本気で私のために──

私の家を救い、
私と添い遂げるために──

彼の持つ権力を使ってくれたのだろうかと、愚かな期待をした。


しかし、彼は初めから──


「私の手で、あなたを殺させるために……妻にしたのか……」


宴の席で円士郎から放たれた言葉の意味をようやく理解できた。


「それが、伊羽青文としての道だと……?」
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