金魚玉の壊しかた
「貴様のような者が、虹庵先生とどういう知り合いだと言うのかね?」

私は鼻白みながら、板の間に座り込んでこの暴漢を睨み上げた。


うう、馬鹿力め。
アザになりそうだ。

つかまれた手首をさすっていると、そいつはひょいと私の横に腰掛けて、私に屈託のない笑顔を向け──


先刻とは別の意味で、私はぎくりとした。


夜で暗かったし、突然のことでこれまで意識が行かなかったが、

至近距離で見た若い侍の顔は、はっとなるほど整っていて格好良くて──



思わず見とれた。



二十一世紀風に言うなら、芸能人やモデル張りの超がつくイケメンって奴だ。

我々の時代風に言うなら、役者張りのいい男、美男子ってところか。


私が若侍の顔に魅入っていると、

彼は自覚があるのかないのか、端正な口元にこちらが陶然とするような完璧な微笑を作って、


「俺は先生の甥で、結城円士郎というんだが」

そう名乗った。




「なにぃ!?」

私は驚いた。


「お前が結城円士郎──?」

「お? 俺の名を知ってんのか?」


彼は嬉しそうに頬を綻ばせた。



武家の者で──いや、この城下町の住人でその名を知らぬ者はいないだろう。
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