金魚玉の壊しかた
私は言葉を忘れて、刃の先にいる男を見ていた。


「円士郎殿や、留玖殿、そして亜鳥──お前たちと遊水として過ごしたこの一年は、夢の中にいるようだった。
幸せな微睡みに浸っているかの如く心地よい時間だった。

しかし、亜鳥が雨宮の娘であると知った時、
私はやはり伊羽青文として重ねてきた悪夢から抜け出せないのだと思い知った」


ぱた、ぱた、という音が聞こえている。

刀からしたたり落ちた雫が、彼の着物にどす黒い染みを作っていた。


「あの日、亜鳥の素性を知った時、何という因果かと思ったよ。
こんなことがあるのかと思った。

だからこれはきっと──伊羽青文として私がこれまで行ってきたことに対する罰なのだろうな」


斬れ、と美しい彼の唇が動いて繰り返した。


それでは──それでは──


私は頭の中で何度も彼の言葉を反芻して、必死にそれらが示すところを考えた。


赤い液体の伝う鋼の刃を見る。


伊羽青文としての彼と、
遊水としての彼と、

その狭間で苦しんで、この人が出した結論がこれだということか。


私の前で
ガラス細工でできた全ての作り物の世界を壊して、

殺されることが。
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