金魚玉の壊しかた
夏の虫が鳴いていた。
「お前も武家の女ならば、選ぶべき道は見えていよう」
いっさいの表情を消して金髪の男が言う。
「お父上と雨宮の無念を晴らせ」
私は引きつった笑いが頬に浮くのを感じた。
「あなたは──どうなのだ?」
彼は、物心着く前に伊羽家を追われ、母親や旅芸人のもとで育ったのだと語った。
「あなたは、もともと武家の人間ではないのだろう?」
私の目には正体を知ってなお、彼の今の姿よりも──遊水として振る舞っていた彼のほうがずっと、生き生きとした彼らしい姿のように映っていた。
それなのに彼は、武士として、ここで私に斬られて死ぬというのか。
「そうだな」
疲れたように、青文は軽く目を伏せた。
「私は結局最期まで、武家社会というものには馴染めなかったが──それでも、私の中に忌まわしいこの伊羽家の血が流れていることは確かだ」
また、いつもの
自嘲気味な、
自虐的な笑い方をこの男はする。
そうか、と私は悟った。
「あなたは、自分自身が嫌いなのだな」
「大嫌いだね。私自身も、この伊羽家も」
間髪入れずに即答して、彼は昏い昏い奈落のような目をした。
「私には子がいない。もはや兄弟もいない。だから私が死んで伊羽家が断絶となることは、この家に対する私にとっての復讐でもあり、私の望みでもあるのだ」
それが、彼の望みなのだとしたら──
ぎゅっと、刀を握る手に力を込める。
「お前も武家の女ならば、選ぶべき道は見えていよう」
いっさいの表情を消して金髪の男が言う。
「お父上と雨宮の無念を晴らせ」
私は引きつった笑いが頬に浮くのを感じた。
「あなたは──どうなのだ?」
彼は、物心着く前に伊羽家を追われ、母親や旅芸人のもとで育ったのだと語った。
「あなたは、もともと武家の人間ではないのだろう?」
私の目には正体を知ってなお、彼の今の姿よりも──遊水として振る舞っていた彼のほうがずっと、生き生きとした彼らしい姿のように映っていた。
それなのに彼は、武士として、ここで私に斬られて死ぬというのか。
「そうだな」
疲れたように、青文は軽く目を伏せた。
「私は結局最期まで、武家社会というものには馴染めなかったが──それでも、私の中に忌まわしいこの伊羽家の血が流れていることは確かだ」
また、いつもの
自嘲気味な、
自虐的な笑い方をこの男はする。
そうか、と私は悟った。
「あなたは、自分自身が嫌いなのだな」
「大嫌いだね。私自身も、この伊羽家も」
間髪入れずに即答して、彼は昏い昏い奈落のような目をした。
「私には子がいない。もはや兄弟もいない。だから私が死んで伊羽家が断絶となることは、この家に対する私にとっての復讐でもあり、私の望みでもあるのだ」
それが、彼の望みなのだとしたら──
ぎゅっと、刀を握る手に力を込める。