金魚玉の壊しかた
刀を握る手が、じっとりと汗ばむ。
りい、りい、と聞こえる虫の声は腹立たしいほど平和で、いつもどおりで、
何時なのかも知れぬ時の鐘がかすかに、夜陰の彼方から届いた。
私は──ここで、彼を殺すのか?
民を思い国を憂いて善政をしくこの男を……
ふと、考えた。
殺せば、どうなる?
私は家老を手にかけた大罪人となり、雨宮の家は今度こそ途絶えるのではないか?
それでも──やはり父の無念を晴らすのが武家に生まれた者の為すべきことか。
「心配はいらない。私を殺したら、円士郎殿に助けを求めよ。結城家ならばきっと、亜鳥も雨宮の家も守ってくれるだろう」
相変わらず私の心の中は筒抜けで、泣きたくなるくらいに正確にそれを読んだ言葉を彼は口にして、
違う、と私は思う。
結局、
彼を殺せば雨宮の家がどうなるか、とか、
彼が善政を行う人間であるとか、
そんなのはただの言い訳だ。
私の感情の中では、どうするべきなのか答えは既に出ている。
「さあ、刀を引け、亜鳥」
と、伊羽青文はその瞬間を促した。
この男は、
私の父を陥れて殺し、
私の家を没落させ、
母を苦しませ、
私の人生を滅茶苦茶にし、
権力の座に居座り続けた。
遊水がもういないのならば、ただの亜鳥ももういない。
ここにいるのは、雨宮の娘の亜鳥だ。
りい、りい、と聞こえる虫の声は腹立たしいほど平和で、いつもどおりで、
何時なのかも知れぬ時の鐘がかすかに、夜陰の彼方から届いた。
私は──ここで、彼を殺すのか?
民を思い国を憂いて善政をしくこの男を……
ふと、考えた。
殺せば、どうなる?
私は家老を手にかけた大罪人となり、雨宮の家は今度こそ途絶えるのではないか?
それでも──やはり父の無念を晴らすのが武家に生まれた者の為すべきことか。
「心配はいらない。私を殺したら、円士郎殿に助けを求めよ。結城家ならばきっと、亜鳥も雨宮の家も守ってくれるだろう」
相変わらず私の心の中は筒抜けで、泣きたくなるくらいに正確にそれを読んだ言葉を彼は口にして、
違う、と私は思う。
結局、
彼を殺せば雨宮の家がどうなるか、とか、
彼が善政を行う人間であるとか、
そんなのはただの言い訳だ。
私の感情の中では、どうするべきなのか答えは既に出ている。
「さあ、刀を引け、亜鳥」
と、伊羽青文はその瞬間を促した。
この男は、
私の父を陥れて殺し、
私の家を没落させ、
母を苦しませ、
私の人生を滅茶苦茶にし、
権力の座に居座り続けた。
遊水がもういないのならば、ただの亜鳥ももういない。
ここにいるのは、雨宮の娘の亜鳥だ。